以前、ある組合の理事から、自分の親族を自分の代理人として理事会に出席させたいが良いか?という質問を受けたことがあります。その理事は、周りからの信頼の厚い方でしたが、その親族の方は、かねてから区画整理事業に反対している方で、組合としては、代理出席を認めたくありません。

 

では、これを法的に考えるとどういうことになるか?ということですが、実は、私はこの問題を簡単に考えていました。会社法の論点として、株式会社の取締役は取締役会に代理人を出席させることができるか?というものがあります。この論点については、「取締役というのは株主総会でその人個人に対する信頼に基づいて選任されており、取締役会ではその人によって協議・意見交換がなされることが必要だから、代理出席は認めらない」という見解が通説であり、土地区画整理組合の議論でも、当然にこの議論があてはまるだろうと思ったからです。

 

ところが、土地区画整理法28条の3に、次のようなちょっと悩ましい条文がありました。

 

(理事の代理行為の委任)

第28条の3 理事は、定款によって禁止されていないときに限り、特定の行為の代理を他人に委任することができる。

 

えっ、ということは、定款で代理出席を禁止していなければ、理事は理事会への出席や決議することを他人に委任することができちゃうの??? 私が知る限り、あまりにも当たり前すぎて、理事本人が理事会に出席しなければならず、代理人を選任してはならない、などと定めている定款は見たことがありませんので、そうすると、大部分の組合で理事は代理人を選任して理事会に出席できることになってしまうのでしょうか?

 

で、ちょっと本腰を入れて調べてみました。

 

よくよく調べてみると、この土地区画整理法第28条の3という条文は、旧民法55条と同じことを定めている条文でした。平成18年に「一般社団及び一般財団に関する法律」ができて、民法から法人に関する基本的な規定(第38条から第84条まで)がごっそり削除されたときに、一般法である民法の中から基本的な規定が消えるので、法律が認める各種法人において困らないようにということで、各法人に関する法律の中に新設された条文だったのです。したがって、同様の条文は、NPO法の中にも規定されていますし、土地改良法のなかにも設けられました。

 

そして、私の悩みを深めたのは、最高裁平成2年11月26日判決の存在でした。この判例は、あるリゾートマンションの管理組合法人で、「理事に事故があり、理事会に出席できないときは、その配偶者又は一親等の親族に限り、これを代理出席させることができる。」と管理規約に規定したところ、ある専有権者が、区分所有法43条7項が準用する民法55条は、理事の個別復代理のみを認め、包括的代理を禁じているところ、理事会で審議、決議することは包括的代理行為であるから、この規約の改定は民法55条に反して無効である、と主張したのです。これに対し、最高裁は、管理組合が理事会の代理出席の可否について規約で定めることは可能であり、この規定は有効であると判断しました。この判例の結論だけを見ると、土地区画整理組合でも、理事会への代理出席を認めても土地区画整理法第28条の3(旧民法55条と同趣旨の規定)に反しないということになりそうです。

 

ただ、改めてこの判決を読み直したところ、そのように判断する必要はないということに気が付きました。

 

まず、最高裁は、「民法55条の規定は、定款、寄付行為又は総会の決議によって禁止されないときに限り、理事が法人の特定の行為の代理のみを他人に委任することを認めて、包括的な委任を禁止したものであって、複数の理事を定め、理事会を設けた場合の右理事会における出席及び議決権の行使について直接規定するものではない」と言っていて、民法第55条は、理事の代表行為に関するものであって、理事会に代理出席を認めるかどうかというような内部的事項を規定するものではないというのです。

 

では、代理出席が認められるかどうかをどう判断するのかというと、最高裁は、「法人の意思決定のための内部的会議体における出席及び議決権の行使が代理に親しむかどうかについては、当該法人において当該会議体が設置された趣旨、当該会議体に委任された事務の内容に照らして、その代理が法人の理事に対する委任の本旨に背馳するものでないかどうかによって決すべきものである。」などといっており、ケースバイケースという感じです。

 

ただ、マンションの管理組合において理事個人があまり重要でないことはなんとなく理解できます。というのは、私が以前住んでいたマンションでも、理事は、各階の専有者の持ち回りで順番に決められているような状態で(むしろ理事を確保する方が大変だった!)、誰が理事になるかはあまり重視されていなかったからです。

 

では、土地区画整理組合の場合はどうでしょう?組合に理事会が設置された趣旨、理事会に委任された事務の内容に照らして理事の代理出席を認めることが可能なのでしょうか?

この点については、一弁護士に過ぎない私が何をいっても大勢に影響はないので、良い文献がないか探していたところ、前述の最高裁平成2年11月26日判決を解説した最高裁判例解説という我々の業界では最も権威のある文献の中に次の記述がありました。

 

「土地区画整理組合には、実質的な権利主体としての土地所有者(借地権者)を構成員とする総会がある。組合の業務は土地区画整理という事実的、技術的事務であり、重要な事項は総会決議事項とされ(31条)、理事に各時代表権があるという点では、本件管理組合と類似する(28条)。しかし、理事は5人以上とされ(27条2項)、組合の事務は、総会ではなく、理事の過半数により決することとされ(28条2項)、理事の氏名は都道府県知事に届け出ることを要し(29条)、多額の資産価値を有する土地に関する事務の適正を図ることが期待されている。

 これらの規定による限り、土地区画整理組合の理事についても、法人の業務執行の決定をするために、その個人的資質、能力に対する信頼に基づいて、選任されたものという余地があろう。」

 

以上から、「土地区画整理組合では、理事会へ代理出席をすることは認められません。」という結論で正しいと思います。私は、かつて株式会社の取締役との比較から、土地区画整理組合では理事会への代理出席は認められない、と単純に考えていましたが、その結論がどうやら間違っていなかったらしいので、少々ほっとしてお

ります。