実は、以前、このブログ注の記事でも、この問題について論じたことがあります(誤解が生じやすいので現在はその記事を削除しました)。

 

 想定している案件は次のとおりです。

 仮換地指定後、組合員のAさんが、第三者のBさんに仮換地を売却しました。その後、換地処分が行われ、現在Bさんが権利者となっている換地に100万円の徴収又は交付清算金が発生したとします。組合としては、この100万円を現在の組合員(買主)であるBさんに請求又は交付すべきなのでしょうか?それとも、もともとの組合員(売主)であるAさんに請求又は交付すべきなのでしょうか? 

 

 以前のブログで、私は次のように書きました。

 

「私は、換地処分の公告があった日の翌日に換地計画で定められた清算金が確定するのだから(土地区画整理法104条8項)、その時点の権利者に清算金は帰属する、というふうに考えていたのです。つまり、換地処分前に仮換地の売買がなされた場合には、換地処分時の土地の所有者は買主なわけですから、『買主』が清算金の交付又は徴収を受けると考えていたのです。

 ところが、実は、仮換地の売買で清算交付金について特約がなく、その後、予定どおり換地がなされた場合、同交付金は『売主』に帰属するというのが最高裁判例(昭和37年12月26日)だったのです。最近でも、松江地裁で同趣旨の判決が出ています(松江地裁平成12年11月27日判決)。」

 

 というわけで、私は、以前のブログの記事で、仮換地指定後、換地処分前に仮換地売買がなされた場合には、清算金は『売主』に帰属すると考えるのが正しいという見解を披露したのでした。

 

 しかし、その後、以下の文献が『買主』に帰属すると述べていることが判明しました。

 

(1)  公益社団法人街づくり区画整理協会『土地区画整理事業実務問答集(改訂版)第2版』(平成24年2月)

 

(2)  社団法人全国土地区画整理組合連合会『土地区画整理辞典』(平成11年7月)

 

(3)  ぎょうせい『問答式土地区画整理の法律実務』(愛区研執筆部分)

 

 特に(3)の文献には詳しい理由付けとともに、東京高裁の判例も援用されているではありませんか。以下、引用。

 

「土地区画整理法(以下「法」といいます。)129条は、土地区画整理事業の円滑な運営のため、土地に関する権利主体に変動があった場合に、従前の処分・手続等が承継人に対して効力を及ぼす旨規定しています。前述のように、仮換地の売買をそれに対応する従前地の売買とみると、買主は従前地の所有者となり、法129条の規定により売主に対してなされた処分、手続の効力はすべて買主に及ぶことになるため、施行者は買主を当初から所有者であったと同様に扱うとともに、その後の処分はすべて買主に対してなされることになります。したがって、換地処分は買主に対してなされ、換地の所有権とともに清算金についての権利義務も買主に帰属することになります。

 判例も、「法129条は土地区画整理事業の開始から換地処分の確定までの土地区画整理事業の法律関係の承継を規定したものであり、換地処分確定前の仮換地の売買による所有権の移転の場合には同条の適用があるところ、清算金に関する権利義務は、当事者間においては公平の見地等から買主に承継されず、売主に帰属すべきものと解される場合があるとしても、土地区画整理事業施行者に対する関係においては事業の円滑な運営のために買主に承継されると解すべきである。」としています(福岡高判昭和56.9.30行裁集32.9.1731)。」

 

 このような状況を受けて、私は自らの見解を見直す必要に迫られました。何しろ、街づくり区画整理協会や全国土地区画整理組合連合会といったいわば公的な業界団体が発行している文献の中で、「清算金は買主に帰属する」と述べられている以上、それを無視することはできませんし、上記(3)の文献の見解も、東京高裁判例まで引用して買主帰属を言い切っているからです。

 

 そもそも私が「清算金は売主に帰属する」と考えたのは、松浦基之弁護士の『<特別法コンメンタール>土地区画整理法』(第一法規出版、平成4年7月)678頁に次のような記述があったからでした。

 

「清算金債権・債務について特段の合意がなされていない場合は、仮換地を見てそれが換地となることを想定して代金の額と支払方法を決め、清算金のことを念頭におかずに契約していることが通常である。このような場合にも、清算金の債権・債務が当然に買主に移転するものとすると、買主は、換地処分の公告ののち、買った土地以外に、清算金の交付を受け、あるいは徴収されて、不測の利益を受けあるいは不利益を被ることとなる。これはむしろ当事者の意思にもそぐわない結果となる。したがって、この場合には、むしろ、清算金に関する債権・債務は移転せず、売主に帰属したままと解すべきものであろう。

 判例は、仮換地の現場に臨んでなした売買で、清算交付金は出るがこれについての特約はなされなかった場合について「売買当事者間における関係では、買主は、売買の目的物となっていた換地後の土地所有権を取得するのみにて足り、清算金交付金は売主に帰属すべきものと解するのが妥当」である旨判示している(最判昭和37年12月26日民集16巻12号2544頁、時報328号23頁、判タ142号48頁)。」

 

 この記述だけを読むと、「売主帰属説」が最高裁判例なのですから、絶対的に正しいように思えたのです。しかし、松浦弁護士は、上記の記述の後に、

 

「しかし、その後の判例はかならずしも安定していない。買主に帰属するとするもの(熊本地判昭和55年11月27日行裁例集31巻11号2540頁。その控訴審、福岡高判昭和56年9月30日行裁例集32巻9号1731頁)と売主に帰属するとするもの(名古屋高判昭和54年11月28日判タ413号128頁。神戸地伊丹支判昭和58年12月27日時報1110号116頁、判タ521号188頁、東京高判昭和63年6月23日東京高民時報39巻5-8合併号34頁・神戸地判平成2年1月28日時報1367号80頁)とがある。」

 

と記載していますので、「売主帰属説」が判例・通説というわけではなく、「買主帰属説」も有力であって、いわば結論が出ていないグレーな分野であることにも言及されていました。

 

で、その後、私も色々と考えみました。現在では、以下の理由から改説し、「買主帰属説」が正しいのではないかと考えています(混乱させて、すみません。)。

 

第一に、私の知り合いのコンサルの方々に聞くと、だいたい清算金は換地処分時の土地の所有者に帰属すると回答しますので、実務では圧倒的に「買主帰属説」で運用されていると考えられます。私があえて「売主帰属」を主張して、この実務をかき回す必要まではありません。

第二に、改めて売主帰属説の根拠とされていた最判昭和37年12月28日判決を調べてみると、これは土地区画整理組合と土地の買主又は売主が当事者となった事案ではなく、土地区画整理組合が清算金を現在の土地の所有者である買主に交付してしまったため、売主が清算金の支払いを求めて買主を訴えた案件でした。

 さらに、以前の記事で私が売主帰属説の根拠として挙げた松江地裁平成12年11月27日判決についても、同様に土地区画整理組合が清算金を買主に交付したため、売主が買主に清算金の支払いを求めた案件であり、売買当事者間の関係を論じたものです。

 そのように考えると、上記の2つの判例は、今回の設問のような(売買の当事者間の問題としてではなく)土地区画整理組合との関係を考える場合には参考となる判例ではないと考えることができます。

 

第三に、理論的なスッキリ感です。冒頭でも述べた通り、清算金は、換地処分の公告日の翌日に発生しますので(土地区画整理法104条8項)、その日に土地について権利を持っている者(組合員)に発生すると考えるのがスッキリします。もとの所有者(売主)に発生するなどとすると、もとの所有者は今どこにいるかもわからないわけで、組合がこれを調べなければならないなどということになったら事実上不可能な場合も生じるでしょう。法がそんな不都合な制度設計をするはずがありません。

 

というわけで、私は、この問題について、再び、「買主帰属説」を採用するに至っています。混乱させてしまい大変申し訳ございませんが、仮換地指定後、換地処分までに、地権者が仮換地を売却したような場合、土地区画整理組合としては、換地処分時の土地の所有者である「買主」を相手に清算金の処理をすれば良い、ということになります。

 

もちろん、買主及び売主から連名で債務引受書を提出されているときは、実務上は、売主に清算金の徴求を請求するということが行われていますが、この点はまた別の話ですね。